Shinobu Koizumi

その案件、コンペにする必要ありますか?


その案件、コンペにする必要ありますか?

店舗設計において、クライアントが複数のインテリアデザイン事務所(設計者)にデザインと施工費概算見積を求めるケースがよくあります。 例えばジャンルは異なりますが新国立競技場(2020年の東京オリンピックに向けた建築コンペ・隈研吾氏が受注)の場合のように、 設計者個々の知力を尽くした様々な案を比較して検討したいということであれば有効です。

しかし、クライアントが「どこそこの店のように」や「この雑誌の写真のように」と既に実在している店舗をゆるぎない完成イメージとして抱いている場合においては、デザイナーの創意工夫が入る余地はほとんどありません。そのお店の模倣を要求されているのですから。このような案件でデザインコンペを実施しても、どの設計者にも同じ解が求められるので大きな違いのない類似した案が提出されてきます。同じような案に対して見積をとるのでこれまた同じような金額があがってきます。

新国立競技場コンペのようにそれぞれ異なる案であれば各々の施工費も違うはずなので見積をとる意義があるのですが、はたして同様のデザインと同様の見積を複数のデザイナーに提出させる必要はあるのでしょうか?

この場合のクライアントの目的は、いろいろなデザインの提案を見たいのではなく一円でも安く施工費を抑えたいということに尽きます。ゆえに迷いなく見積の金額のみを比べて一番安いところを選びます。予算を抑えることは決して悪いことではありませんが、はっきり言ってデザイナーは求められてはいません。それならどこでもいいから一つのデザイン事務所を選定し、そこに概算ではなく正式な施工費見積入札を実施してもらい、一番安い施工業社に決めれば済む話なのです。それでも予算を超過してしまうなら、予算に見合う設計内容に修正してもらえば良いのです。(本ブログ記事「金額調整」参照)

概算とは言え見積をとるには平面図、CGパースなどが最低限必要になってきます。打ち合わせ、現場調査を経て制作作業に数週間のデスクワークが費やされ、出来上がった資料を施工業社に渡して見積を依頼します。大抵これらを無償で行なうことになります。代金がかかる旨をクライアントに伝えた場合、間違いなく断られるからです。クライアントはマッチングサイトを通して、10社にも20社にも提案させているのです。デザイン事務所は、デザインと自身のスキルを求められていないにも関わらず、実に不毛な競争を強いられます。

クライアントの皆様には今一度考えていただきたいのです。その案件、コンペにする必要ありますか?


/ older post 竣工


blog top